みなさん、セレコックスって薬はご存じですかね…
実はこれ、名が体を表している面白い薬なんですが、まだまだなじみがないようでして。
いや、先日ですね。
うちの母親が
え、セレコックスって痛み止めなん!?
と言っていたので、もしかすると同じように知らずに薬箱で埃かぶらせてる人もいるかもしれないなーと思い、セレコックスがどういう薬なのかちょっくら紹介してみようと思います!
あ、先に言ってしまいましたが、セレコックスはいわゆる痛み止めです。 ロキソニンやボルタレンの仲間です。
うちの母親は胃薬だと思ってたそうです。
(ある意味惜しい…)
今回の記事のチェックは松原良太先生にお願いしました
どこの誰とも分からない僕が医療系のことについて書いても誰も信用できないと思うので、毎回テーマ毎にお詳しい先生に内容の確認をしていただくようにしています。
今回は、口腔外科の専門医である松原良太先生にチェックをお願いしました。
現在は熊本県玉名市にある【まつばら歯科口腔外科こども歯科】にいらっしゃいます。
松原先生、薬のことばっかり聞いてるから薬理学の先生みたいになってるけど、専門は歯科口腔外科です。 口腔外科は他の病気がある患者さんも見たりするので、薬や医科の病気にも詳しい先生が多いのです。
セレコックスとは
セレコックスはいわゆる痛み止めの一種です。
こちらのニュースによると2007年6月12日に発売のようで、かなり新しい。
こんな↓緑色のパッケージ。
分類的には【抗炎症薬】と呼ばれるもので、炎症を抑える薬です。
さて、炎症か…
ねーねー、炎症ってなぁに?
子どもに聞かれたらなんて答えますか?
炎症っていうのはね…、えーと…、こう…、何というか…、熱があったり……
これ、けっこう難しいと思うんですよね。
詳しくは後で書きますが、みなさんのイメージ通りに
- 痛みがある
- 熱がある
と、ひとまずこんな感じで大丈夫です。
炎症が痛みや発熱のことなので、抗炎症薬であるセレコックスの作用は
- 痛みを抑える!
- 発熱を抑える!
となります。
薬のデータベースを確認するとこのようになっていました。
総称名 セレコックス 一般名 セレコキシブ 欧文一般名 Celecoxib 製剤名 セレコキシブ錠 薬効分類名 非ステロイド性消炎・鎮痛剤(COX-2選択的阻害剤)
非ステロイド性…?
抗炎症薬はステロイド性のものと非ステロイド性のものがあります。
ステロイド性のものはいわゆるステロイドです。
今回は非ステロイド性のものについてだけお話しするので、このページに出てくる次の言葉は全て【非ステロイド性抗炎症薬】と置き換えてください。
- 抗炎症薬
- 痛み止め
- 鎮痛剤
- 解熱剤
セレコックスに解熱作用はあるのか?
同じデータベースでセレコックスの効能を確認すると
- 下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
- 手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛
と、鎮痛作用ばかりで解熱に関して書いてないんですよね。
「そんなバカナ!」と思って調べてみると…
長くなったので解熱についてだけ書きました
セレコックスはココが凄い!
さてさて、セレコックスが痛み止めであることは分かりました。
ですが、鎮痛剤ならロキソニンもあるしボルタレンもあるし、それ以外にも薬局でもいろいろなものが買えます。 インターネットでも買えます。
いまさら新しい薬が登場しても、割って入る余地はあるんでしょうか?
むしろロキソニンを信頼してる人からしたら
はぁ!?セレコックス?何これ?ロキソニンくれよ!ロキソニン!
となってしまいそうですが…
あるんですよ!
セレコックスにしかない凄いところが!
…の前に前提となるお話をもう少しだけ。
ロキソニンには有名な副作用があります!
これ見たことないですか?
ムコスタという薬です。 胃を保護する作用があります。
このページは「レバミピド」というキーワードでけっこうアクセスされていますが、同じものです。 「レバミピド」は成分の名前、「ムコスタ」は商品の名前。
ロキソニンを処方される時にはけっこうな割合でセットで付いてきてるんじゃないかと思います。
なぜロキソニンとムコスタがセットで渡されることが多いかというとですね、ロキソニンは副作用で胃が荒れやすいんですね。
先ほどの薬データベースのロキソニンのページを見ると、副作用のところはこんな感じ。
総症例13,486例中副作用の報告されたものは409例(3.03%)であった。 その主なものは、消化器症状(胃部不快感、腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振等2.25%)、
胃への副作用が最も多い。
この副作用を抑えるためにムコスタとセットでもらうことがあるのです。
セレコックスは胃への副作用が激減!
同じく痛み止めのセレコックス。
ロキソニンに比べ、胃への副作用の頻度がかなり低いんです。
先ほどのデータベースによると、胃への副作用の割合は0.1~1.0%未満とのこと。
つまりセレコックスは、従来の薬が抱えていた副作用を解決した痛み止めということなのです!
……。
いや、胃が痛くならないだけでは?
そう言ってしまうとそれまでですが、実はこれにはちょっと面白い話があります。
セレコックスの胃への副作用が少ない理由は、その作用の仕方によるもので、その秘密がなんとセレコックスという名前に隠されているのです!
炎症の仕組み
セレコックスの正体に迫る前に少し【炎症】というものについて説明したいと思います。
大丈夫、大丈夫。すぐに終わるから!
炎症は生体の防御反応のひとつです。 痛みや熱で迷惑極まりないですが、別に体を攻撃しているわけではないんですね。
で、炎症が起きると次のような症状が出ます。
発赤 | =赤くなる |
---|---|
発熱 | =熱が出る、熱を帯びる |
腫脹 | =腫れる |
疼痛 | =痛みが出る |
これに機能障害を合わせて、炎症の4徴候と言ったり5徴候と言ったりします。
炎症の際にはこのような症状を起こす化学物質が体内で分泌されています。
抗炎症薬の仕組み
炎症を起こしているのが化学物質なら、その物質の作用を弱めたり無くしてしまう薬を作ればいいじゃない?
という発想でできたのが抗炎症薬です。
以下、少しだけ難しい言葉が出てきます!
脳がストライキ起こさないようなるべく単純にするので少しだけお付き合いください!
酵素の名前は5分間だけ覚えてあげてください!
ロキソニンは、炎症を起こす化学物質のうち、プロスタグランジンE2(以下、炎症物質)という物質を弱める作用があります。 正確には炎症物質を作る酵素の働きを抑えて、炎症物質が作られないようにします。
この酵素、名前をシクロオキシゲナーゼ2と言います。 通称COX-2(コックスツー)。
(む、コックス…?どっかで聞いたな)
こいつが炎症物質を作るせいで痛くなったり熱が出たりするわけです。
ロキソニンを飲むとCOX-2の働きが抑えられて、炎症物質の生成量が減り、炎症が治まる、という流れです。
分かりやすいよう図にすると次のようなイメージ。
これが通常の流れ。
ロキソニン投入。
まずはCOX-2が働かなくなり…
炎症物質を作ることができなくなり…
炎症物質が減る。
ところが!
COX-2というからにはもちろんCOX-1も体の中には存在しているわけでして、COX-1とCOX-2はその化学的な構造も似ています。
ロキソニンからするとCOX-1とCOX-2の区別がつきません。 このせいでロキソニンはCOX-1もろとも作用を弱めてしまうのです。
COX-1が弱まるとどうなるのか!?
COX-1は炎症じゃない時にも働いていて、胃の粘膜を保護しています。
ロキソニンはこれを抑えてしまうから胃が保護できなくなり、胃が荒れてしまうというわけです。
セレコックスの名前に隠された秘密
COX-1とCOX-2を区別できないせいで副作用が避けられない抗炎症薬。
患者さんのために、どうにかCOX-2にだけ働くようにできないものか…
科学者達の中にはこんな苦悩があったんじゃないでしょうか?
ここで改めてセレコックスの名前を見ていただきたい。
勘の鋭い方なら既にお気づきと思いますが、COX(コックス)。 これが名前に入ってるんですね。
前半部分は、セレ…セレ……セレクション…?
もしかしてCOX-2だけを選んで抑えられる薬なのでは…!?
正解です!
英語にすると
Selective COX-2 inhibitor
(選択的COX-2阻害薬)
略してセレコックス!
セレコックスはまさに「COX-1には作用せず、COX-2だけを弱めることができる薬」なのです。
=胃の保護は邪魔をせず、炎症だけを抑える。
おお!頑張った!科学者達!
実は最初に答えが出ていました
冒頭で薬のデータベースからセレコックスを紹介しましたが、実はあそこに「COX-2選択的阻害剤」と書いてあったんですね。
名前の由来はウソだった…
Q&A作る際に追加調査で医薬品インタビューフォームを読んでいた際に気付きました。
セレコックスの由来は、成分セレコキシブ(celecoxib)の後ろの「ib」を取っただけだったようです…
「選択的COX-2阻害薬」の話は覚え方のような感じで…
おまけ:ロキソニンとセレコックスの値段
胃が痛くなる程度の副作用なら、僕たちとしては副作用があるかないかよりも値段が気になるところです。
というわけで調べてみました。
ムコスタ併用のケースも想定して、薬データベースでそれぞれの薬価を調べてみると
セレコックス錠100mg | 69円/錠 |
---|---|
ロキソニン錠60mg | 13.8円/錠 |
ムコスタ錠100mg | 12円/錠 |
薬価というのは1錠あたりの値段だそうなので、仮に10錠処方されて、保険で3割負担だった場合
セレコックス | 207円 |
---|---|
ロキソニンのみ | 41.4円 |
ロキソニン+ムコスタ | 77.4円 |
高いぞ!セレコックス!
セレコックス Q&A
このページにアクセスしている検索ワードを見ていると、ここに書いてない内容がけっこう含まれていました。
最後まで読んだのに、知りたいことが書いてなかったらさぞかしがっかりさせてしまったのではないかと思うので、検索ワードを拾ってQ&A形式で追加しました。
「セレコックス 太る」
セレコックスの添付文書(PDF)で副作用を確認してきました。
確かに書いてあります、「体重増加」。
発生頻度は0.1%未満となっているので、1,000人にひとりも出ない副作用のようです。
同じくロキソニンの添付文書(PDF)も見ましたが「体重増加」は書いていなかったので、ロキソニンにはないデメリットです。
ですがこの「体重増加」は「太る」とはちょっと違うニュアンスでして…。
結論だけ書いておくと、セレコックスの副作用に「体重増加」はありましたが「太る(脂肪)」ではありません。
体重は増加するけど太るわけではない
「セレコックス 解熱」
長くなったのでちゃんと取材してまとめてきました。
「解熱剤か?」と聞かれれば答えはNOです。
「解熱作用はあるのか?」と聞かれれば答えはYES…?
解熱作用はあるけど解熱剤ではない…?
「セレコックス 市販」
市販のセレコックスがあるのかってことだと思うんですが、意図的には「処方箋なしで薬局で買えるセレコックスはあるのか?」だと思うので、そういう意味でお答えしています。
結論だけ置いておくと、今のところ市販のセレコックスはありませんでした。
セレコックスは「処方箋医薬品」
「セレコックス 歯痛」
セレコックスで歯の痛みが治まるかどうかってことですかね。
これも解熱作用と同様に、「歯痛の鎮痛目的で処方されるか?」と言われれば答えはNOでした。
「歯痛の鎮痛作用があるか?」という意味なら、今回は答えにくいで記事を読んでみて判断してください。
少なくとも歯痛では処方されない
「セレコックス 胃痛」
これはどっちだ…?
「セレコックスで胃痛が出ますか?」という意味なら
従来の痛み止めに比べると出にくいけど、全く出ないわけではないよ。
「セレコックスで胃痛は抑えられますか?」という意味なら、うーむ…。
何が原因で胃が痛いのかによりますが、飲まない方がよさそう。
胃酸で痛いなら飲んじゃダメ
「セレコックス ロキソニン 併用」
添付文書の「併用注意」を確認しましたが、セレコックス側にもロキソニン側にも名前は挙がっていませんでした。
ただ、今度は用量の問題が出てくるはずなので、先生に痛みが治まってない旨を相談して、どう対処すればいいか聞いてみましょう。
抗炎症薬との併用注意だとアスピリンの名前が挙がっていました。 併用すると消化器症状の発生率が高くなるそうです。
「セレコックス 胃薬」
他にも「レバミピド 併用」「ムコスタ」など。
レバミピドは成分名、ムコスタは商品名で、同じく鎮痛剤の胃への副作用を抑える薬です。
セレコックスは従来の鎮痛剤に比べると副作用が出にくくなっていますが、全く出ないわけではありません。 場合によってはムコスタとセットで処方されることもあるようです。
「セレコックスとロキソニンどっちが強い」
こちらも医薬品インタビューフォームに実験結果が載っていました。
関節リウマチの患者さんを対象に、ロキソニンと比較して症状の改善率を調査したところ、最終的に20%ちょっとセレコックスの方が結果が良かったそうな。
ロキソニンが1日3回服用なのに対して、セレコックスが2回服用なところからも、その薬効の強さが伺えるでしょう。
まとめ
今回はあまりなじみのない痛み止め、セレコックスを紹介してみました。
言ってしまえば胃薬と合わせて飲まなくていいだけの痛み止めなのですが、
- セレコックス以前の副作用
- セレコックスの名前の由来
このあたりを知ってしまうと、この緑のパッケージが妙に愛おしく見え…
ないですね!
このページを読んでいただいた方はセレコックスがどういう薬か分かってもらえたと思うので、歯医者さん・お医者さんでもらっても、
お!これが噂の胃が悪くならない痛み止めか!
と暖かく迎え入れてあげてください。