「専門医」って言葉、聞いたことありますか?
私は日本オレ歯科学会の専門医です。
って言われるとなんかスゴイ先生のように聞こえるでしょ?
(日本オレ歯科学会なる団体は実在しません)
実際に専門医の先生方はすごいんですが、「漠然とスゴイ」と感じるのではなく、専門医制度がどのような仕組みで出来ていて、どうスゴイのか。
今回はこれを知っていただけたらと思います。
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今回の記事のチェックは松原良太先生にお願いしました
どこの誰とも分からない僕が医療系のことについて書いても誰も信用できないと思うので、毎回テーマ毎にお詳しい先生に内容の確認をしていただくようにしています。
今回は、口腔外科の専門医である松原良太先生にチェックをお願いしました。
現在は熊本県玉名市にある【まつばら歯科口腔外科こども歯科】にいらっしゃいます。
各科にいるのが必ず専門医というわけではない!
下調べで友人に意識調査していたらこの勘違いがあったのでまずはこれを…。
口腔外科にいる先生のことを口腔外科専門医と呼んでいるわけではありません。
小児歯科、矯正歯科についても同様です。
口腔外科にいるのは口腔外科が得意な先生です。
口腔外科勤務のために取得する資格が「口腔外科専門医」というわけではないのです。
専門医は自己申告じゃない!資格だ!
診療科まとめの記事で軽く専門医について触れました。
「医師」「歯科医師」の国家資格と比較して、「専門医は国家資格じゃないですよー」と書いたんですが、国家資格じゃないだけで資格です。
それぞれの診療科には「日本○○○学会」みたいなのがあって、そこが発行する資格が「専門医」です。
松原先生の場合だと日本口腔外科学会の口腔外科専門医。
逆に言うと、どんなに優秀でも学会に所属せず専門医資格を取っていなければ、専門医にはなれません。
例えば、日本口腔外科学会には属していないけど、口腔外科ばっかり30年勉強してきたベテランの先生がいたとしましょう。
この先生は口腔外科専門医とは名乗れません。
同様に、専門医である松原先生より100倍治療がうまいけど、日本口腔外科学会に所属していない先生がいたとしましょう。
この先生も口腔外科専門医とは名乗れません。
勝手に名乗ると日本口腔外科学会が怒ってくると思います。 あとたぶん厚労省も。
「専門です」「専門家です」は自己申告
対して「私は口腔外科が専門です」「口腔外科の専門家です」みたいなのは自己申告なので、自分でそうだと思えば言うことができます。
専門医という仕組みを知らないと誤解を招く可能性があるので、注意が必要かもしれません。
だからと言って自己申告が専門医に劣るのかというと、必ずしもそうではありません。 これは後で書きます。
専門医とはどういう資格なのか
学会が定める基準をクリアした先生が専門医として認められます。
内容的には、その分野での勤続年数、論文などの学術的活動、筆記試験・口頭試験、実技試験などのようです。
松原先生の口腔外科専門医の場合はこの↓ような条件。
口腔外科専門医の必要条件
- 歯科医師(医師)免許取得後、初期臨床研修を修了してから6年以上、学会認定の研修施設(准研修施設)に所属
- 口腔外科に係わる診療と学術的活動に従事して一定以上の実績を有すること
口腔外科専門医の認定試験
- 申請書類審査
- 筆記試験・口頭試問
- 手術実地審査
要は「専門医」としての知識、技術、経験、実績をある程度保証する資格。
認定医
専門医と似たものに「認定医」というのがあります。
認定医は一般に専門医の前段階の状態です。
口腔外科の場合だと、勤務期間の条件が2年(専門医は6年)に減り、口頭試問・手術実地審査がありません。
前に友人が
専門医は専門にしてるだけで、認定医は認定された人だから、認定医の方が強いんじゃねーの?
と言っていましたが、取得のしにくさという点では逆です。
指導医
指導医はちょっと切り口が違い、「若手の先生を指導」するための資格です。
口腔外科の場合だと、勤務期間の条件が12年に増え、面接もあるようです。
取得のしにくさという意味では、指導医>専門医>認定医ということになりますが、指導医はちょっと意味合が違いますね。
あと、学会によっては取得のしにくさも専門医>指導医>認定医の順だったりするので、患者サイドで考える場合は、専門医>認定医だけ覚えておけばよいでしょう。
厚労省が許可する専門医とそうでない専門医がある
患者さんにとっての「専門医」とは、「専門医です。私にお任せください。」のような使われ方になると思いますが、これは広告(患者さんを誘引する意図がある)になるので医療広告ガイドラインによる制限が入ります。
広告に使っていい専門医とそうでない専門医があるのです。
何がOKで何がダメなのかは厚生労働省が決めています。
なぜこのような制限があるかというと、極端な話、僕が
オレ歯科 専門医制度を作ります。
と言って先生方にオレ歯科専門医を名乗ってもらったところで、患者さんにとっては何の役にも立たない資格です。 ですが「専門医」とついていると患者さんに「何やら凄そう」と誤解させてしまう恐れがあります。
こういうことがないよう、厚労省が学会の実態を調査して「患者さんに有益であることを確認しましたよ」というのが広告していい専門医となります。
広告が認められた歯科の専門医
たった5つしかありません。
- 日本口腔外科学会の口腔外科専門医
- 日本歯周病学会の歯周病専門医
- 日本歯科麻酔学会の歯科麻酔専門医
- 日本小児歯科学会の小児歯科専門医
- 日本歯科放射線学会の歯科放射線専門医
認められていない専門医がうさんくさいわけではない
「広告が認められていない」というと何やらうさんくさいように思えますが、そういうニュアンスではありません。
厚労省は可能な限り間違いがないよう、石橋を叩いて叩いて、その横に鉄橋を作って、最後に飛行機で渡るくらい慎重に審査しているんだと思うので、なかなか増えないみたいです。
認められている5つの中に虫歯治療、被せ物や入れ歯、インプラントなんかの専門医が含まれていないことからも、「広告可能=信頼できる専門医」ではないことが分かると思います。
専門医が必ず勝るわけではない
専門医は各学会に所属して、学会が定める知識・技術・経験を、学会が保証する資格です。
なので、専門医でない人が必ず「専門ではない」「凄くない」ということを保証するものではありません。
専門医でなくても専門医と同等、あるいはそれ以上の先生もいるはずです。
けど、それをどうやって患者さんが評価するのか。
これは極めて難しい、というか不可能でしょう。
そのため、その客観的な指標のひとつとして専門医制度がある、と考えればいいんだと思います。
患者さんが自分で先生方を評価してもいいし、専門医という資格でお手軽に判断してもいい。
なぜ専門医をとらない先生がいるのか
めんどくせーからじゃないですかね。
論文書いたり、大学に所属したりとめんどくさそうな条件がチラホラあります。
その時間を使ってバリバリ治療して、自分の技術を磨きたいという先生もいるでしょう。
まとめ
専門医というのは一定の知識・技術・経験を保証する資格でした。
優秀な先生が必ず専門医を持っているわけじゃないので、「専門医持っていない人よりスゴイ!」みたいな単純な構造にはなりませんでしたが、歯医者選びのひとつの指標として参考にしてみてください。
各学会で保証されている内容も異なっているので、詳細は学会のホームページにて。