「オールセラミック」は簡単に言うと「白い歯」です。
保険治療で使うプラスチック系よりも綺麗な白さで、硬いし劣化もしない。
ですがセラミックと一口に言っても、今ではいくつかの種類があります。
おまけに同じセラミックでも医院によって呼び方が違うことがけっこうあって、自分が選ぶ立場となるとどれがどれやらもう訳が分からない。
どれくらい訳が分からないかというと…
- オールセラミック
- ポーセレン
- ハイブリッド
- ハイブリッドレジン
- ハイブリッドセラミック
- ジルコニア
- オールジルコニア
- フルジルコニア
- ジルコニアポーセレン
- ジルコニア+レイヤリング
- ジルコニアボンド
- ジルライト
- セレック
- e-max
- メタルボンド
- メタルセラミック
- ラミネートベニア
ざっと調べただけでもこれだけの表記を見つけました。
(後で説明しますがこの中にはいわゆるセラミックでないものも含んでいます)
カオスッ!?
多くの人は分からない名前がチラホラ含まれているんじゃないかと思います。
そこで今回は白い歯に関する混沌とした表記を整理してみたいと思います!
このページの目次
今回の記事のチェックは大穂耕平先生にお願いしました
どこの誰とも分からない僕が医療系のことについて書いても誰も信用できないと思うので、毎回テーマ毎にお詳しい先生に内容の確認をしていただくようにしています。
今回は、九州大学出身の大穂耕平先生にチェックをお願いしました。
現在は福岡県福岡市で開業準備中だそうです。
そもそもセラミックとは何なのか
セラミックは鉱石を焼き固めた陶磁器の総称です。
Wikipediaの説明はこんな感じ。
セラミックスまたはセラミックとは、狭義には陶磁器を指すが、広義では窯業製品の総称として用いられ、無機物を加熱処理し焼き固めた焼結体を指す。
何やら難しい言い方になっていますが、まぁお茶碗のような素材と考えてください。
今回大事なのは【総称】という部分だけ。
特定の素材を表しているのではなくて、陶磁器のような素材の総称なんです。 鉱物を焼き固めた素材は全部セラミック。
おまけ:セラミックとセラミックス
英語の単数形と複数形…なのですが、一応ちゃんと使い分けがあったようです。
材料をセラミック、製品をセラミックスと呼んでいた。
ただ、そんなに厳密ではなくて、日本では「セラミック」という表現が広く使われているそうです。 僕もそういうイメージなので、全て「セラミック」と書かせてもらっています。
歯科で使うセラミックは大きく3種類
現在、歯医者さんが使うセラミックには大きく3つの種類があります。
先ほどのリストにも全部入っていますね。
この3つを合わせて「セラミック」と呼んでいるわけです。
この3つの詳しい比較は別記事で取材中なので、ここでは先ほどの一覧の区別をするために必要な最小限の特徴だけ紹介します。
普通こそ最強
白い歯「セラミック」の種類ごとの特徴まとめ!e-max最強説!?
(構想段階)
ポーセレンとは
初期型セラミックです。
他のセラミックとの比較で、ざっくりした特徴を挙げると
- 見た目が非常に美しい!
- 割れやすい!
ジルコニアとは
ポーセレンの問題であった「割れやすい!」という特徴を解決したセラミックです。
その強度と引き換えに見た目の美しさは減少(白いのは白い)。 透明感がない(歯は透明感がある)ので、詰め物をジルコニアで作ると明らかに浮いて見えるそうな。
ここでは『強度に優れるが見た目に劣るセラミック』と覚えてください。
リストにある【ジルライト】は、透明感を持たせたジルコニアで、強度が少し劣る(それでも十分)代わりに見た目を向上させたものです。
e-maxとは
ポーセレンから派生したセラミックです。 「イーマックス」と読みます。
イメージとしては、ポーセレンの特徴をほぼそのままに、割れにくさだけを3倍に強化!
物理的にも化学的にも歯の性質にとても似ていて、あえて呼ぶなら「普通のセラミック」…?
その「普通」の素晴らしさについては次回の記事で!
歯医者さんの料金表で一番見かけるので「e-max」という表記にしていますが、e-maxはイボクラール・ビバデントという会社の商品名です。
分類的には「二ケイ酸リチウム系のセラミック」とのことです。 長いので以下「emax」。
改めてオールセラミックという言葉を考えてみる
セラミックというのは総称で、歯科で使用するセラミックにはポーセレンとジルコニアとemaxの3種類があることが分かりました。
素材に関してすっきりしたところで、
じゃーオールセラミックって何なのか?
ということについて考えてみたいと思います。
文字通りに考えるとこれはつまり
全部セラミックでできた歯
を表していることになります。
セラミックが歯科で使われた当初であれば、
【オール】
=他の素材を併用していない
【セラミック】
=プラスチックや金属ではない
という意味で使われていたのでしょうが、セラミックの種類が増えてきた今となってはこの表現はとっても曖昧。
だって!
オールポーセレンでも!
オールジルコニアでも!
オールemaxでも!
果ては、後で出てくるポーセレンとジルコニアを併用したものまで!
全部オールセラミックと呼べてしまうからです!
これを回避するために、「オールセラミック(ジルコニア)」のような表記の医院もありました。
「オールセラミック」とだけ書かれていた場合は何?
これは慣例的に
オールポーセレン
の意味で使われることが多かったようですが、今ではその保証はありません。
あ、悪い意味じゃないですからね。 先生方も分かりやすく書こうとした結果です。
どのセラミックを使うかは僕たちの好みではなく、口の中の状態に合わせて歯医者さん側が選ぶものなので、ジルコニアだのemaxだのとややこしくするよりは、従来通りオールセラミック表記にしているんだと思います。
なので「オールセラミック」とは、単純に「金属を併用せず、セラミックだけでできている」くらいの意味でとらえればいいと思います。
「オールジルコニア」の【オール】も同じ意味です
最初のリストに「オールジルコニア」というものがありましたが、これもオールセラミックの「オール」と同じ意味です。
金属の上に貼り付けたりせず、全部ジルコニアで出来ている。 「フルジルコニア」も同じ。
これはおそらく「オールセラミックだけどジルコニア使ってるぞ!」という意味や、後で出てくるレイヤリングのジルコニアと区別するために使ってる表記じゃないかと思います。
ハイブリッドは何者!?
先ほどのリスト、「ハイブリッド」という言葉が含まれているものが3つあります。
- ハイブリッド
- ハイブリッドレジン
- ハイブリッドセラミック
これらは3つとも同じものです。
手元の歯科理工学(歯科の素材の本)を確認すると、正式名称は
ハイブリッド型コンポジットレジン。
で、このハイブリッドがどういうものなのかと言うとですね。
セラミックの粉末を混ぜて強化されたレジン(歯科用プラスチック)です。
レジンとセラミックの含有量によって、ハイブリッドレジンだったりハイブリッドセラミックだったりします。
ジルコニアポーセレンは何者!?
名前からするとジルコニアとポーセレンを混ぜた素材のように見えますが、ちょっと違います。
ジルコニアの上にポーセレンを焼き付けた被せ物です。
先ほど説明しましたが、
ジルコニアは割れにくく、少し見た目が悪い。
ポーセレンは割れやすいが、見た目がとても良い。
これらの長所だけをうまく活かそうと組み合わせたものです。
ジルコニアの上にポーセレンの層(=レイヤー)を作るので、レイヤリングと呼ばれる場合もあります。
最初のリストにあった「ジルコニア+レイヤリング」などがまさにこれ。 つまり同じものです。
ジルコニアの上に貼り付けているので、「ジルコニアボンド」とか「ジルコボンド」と呼ばれることもあります。
セレックは仲間はずれ
流れ的にはこれもセラミックの一種かなと思ったのですが、違いました。
歯医者さんの料金表見てるとそう勘違いするような表記がけっこうあるんですよねー。
ですがセレックはシステムの名前です!
3Dカメラで口の中を撮影!
それをコンピュータで読み取り!
3Dプリンタで被せ物を削り出す!
そんな未来的なシステムが!?
あるんですねー。 びっくりしました。
セレックが入ってる医院の先生にお願いして、取材と動画撮影を予定しています!
近未来の歯科技工
行ったその日にセラミックの歯が入る!未来的な歯科治療を見学してきた
(構想段階)
ちなみにセレックというのは商品名で、デンツプライシロナから出ているCAD/CAMシステムの名前です。
CAD/CAMシステムは他メーカーからも出ているそうです。
セレックで作った歯の素材
セレックで作る歯の素材ですが、ハイブリッド、ポーセレン、emax、ジルコニアなど、いろんなものがあるそうです。
システムの名前なので「セレック」と書いてあっても特定の素材に限定されません。
お目当ての素材がある人は何を使っているのか先生に聞いてみましょう。
料金表にセレックと書かれていた場合
意味合的には大きく2種類に分けられ、まず一つ目は「技工士さんの手作業によるものじゃないんだぞ」という意味。
通常通り技工所に頼んでいて、技工所でセレックを使って削り出しているパターンです。
もうひとつは「院内にセレックがあるので即日で作れる(場合がある)よ!」という意味。
院内にセレックがあると技工所に出す行程がないので、院内でその日の内に完成させてしまえることがあるみたいなんです。
詳しい条件などはセレック取材の記事で書きます。
ただまぁセレックが入っている医院はものすごく少ないと思うので、基本的には前者の意味で使われていると思います。
なぜセレックが少ないかって?
目ん玉が飛び出るほどたっけーんだよ!
メタルボンドは何者!?
昔の白い素材は、レジン(プラスチック)にしろ、ポーセレンにしろ、強度的な問題を抱えていました。
銀歯や金属ならその点は解決できるんですが、僕たち患者サイドからすると銀色や金色じゃなく、やっぱり白い歯を入れてほしい。
この問題を解決するために考え出されたのが前装冠と呼ばれるものです。
(冠は被せ物、クラウンの意味です)
土台は丈夫な金属で作り、その上にレジンなりセラミックなりを貼り付ける。
こうすると、強度的な問題はかなりクリアでき、外から見ると白い、ということが実現できます。
この前装冠のうち、セラミックを焼き付けたものを陶材焼付冠と呼び、カタカナでメタルボンドとか、メタルセラミックとか言います。
今はセラミックが進化してオールセラミックが主流になったので、メタルボンドは減ってきていますが、ブリッジなど特に強度が必要な場合にまだ使われることがあるようです。
ラミネートベニアは別物
ラミネートベニアとは、こんな風↓に歯の表面だけを薄く削って、付け爪みたいに被せるものです。
素材的にはセラミックなんですが、ラミネートベニアはちょっと毛色が違います。
これまで紹介してきたものは、虫歯で歯をある程度以上削った場合に行われる治療であるの対して、ラミネートベニアは歯が変色したり、隣の歯とすき間が空いている場合などに使用されます。
オールセラミックと比較する類いのものではないです。
どれが保険適用か
残念ながらほぼ全て自費診療です。
保険適用になるのは一部のハイブリッドレジンのみ。
「一部の」というのは、保険で認められているハイブリッドレジンを、保険で認められている部位に、保険で認められている方法で治療した場合です。
何が保険で何が自費なのかはけっこうややこしいので、次の記事を見てみてください。
保険診療の仕組みが分かる
なぜこのようなややこしい表記になっているのか
これは先生方も苦労されています。
患者さんに良い治療を受けてもらうには、それぞれの素材の長所短所を知ってもらって一番自分に合うものを選んでもらうべきなのですが、いざ「治療します!」の段階で何種類もの聞き慣れない名前の長所短所を言われても余計に混乱してしまいます。
そのため、なるべく分かりやすく、選びやすくなるような表記を考えているようです。
結果、医院によって表記がバラバラ。
ただまぁ、部位によっておすすめのセラミックはある程度決まっているようで、大穂先生のところなんかは非常にシンプルになっていました。
臼歯インレー(部分的な詰め物) 45,000円 臼歯クラウン(かぶせもの) 80,000円 前歯クラウン・単層セラミック 80,000円 前歯クラウン・多層セラミック 100,000円
これは別に1種類(2種類?)しかセラミックを扱っていないということではなくて、料金表は患者さんが理解しやすいようにあえてシンプルにし、実際に使うセラミックの種類に関しては先生が患者さんにとって適切なものを提案し、相談の上決める仕組みになっているようです。
これくらいシンプルだと患者側はめっちゃ楽だな。
まとめ
セラミックの種類まとめ、いかがだったでしょうか?
表記だけ数えるとすごい量あるんですが、素材としてはポーセレン、ジルコニア、emaxの3種類。 あと一応ハイブリッドレジン。
構造的にちょっと違うのがレイヤリングとメタルボンド。
これくらい押さえておけば、歯医者さんで話を聞いてもずいぶん理解しやすくなるんじゃないかと思います。
基本は歯医者さんがベストなものを提案してくれるので、勧められた時に「あー、オレ歯科で言ってたアレのことね!」みたいな感じで活用してもらえると嬉しいです。
参考文献
学建書院 スタンダード歯科理工学 第3版
医歯薬出版 クラウンブリッジ補綴学 第4版